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ダンサー・振付家 藤田善宏氏石見の奉納神楽を巡る

石見神楽×ダンス 創作レポート

「ダンサー・振付家 藤田善宏氏 石見の奉納神楽を巡る」@笹川八幡宮奉納神楽(三谷神楽社中)

2017年、2019年と2度の石見神楽とのコラボレーション作品を創り上げたダンサー・振付家の藤田善宏氏。

「しまね伝統芸能祭」オープニング公演として三度目のGF神楽(グラントワ×藤田×神楽)上演に向けて、実際に石見地域で行われる奉納神楽の見学を行いました。笹川八幡宮(益田市)にて三谷神楽社中の奉納を生で体験したレポートと石見神楽への思いをお聞きしました。


     しまね伝統芸能祭プレイベント 石見神楽×ダンス「KUROZUKA」「IWATO」(2019年3月)



■Q1. 奉納としての石見神楽を体験されてどうでしたか?


(藤田) 神楽は今までは劇場でしか観たことがなかったのですが、今回初めて神社での奉納神楽を体験させていただきまた。劇場の観客席ではなくこじんまりとした畳の上にあぐらをかいて観るスタイル。 観に来られた皆さんに係の方が、お茶やお菓子、お酒やおつまみを振る舞ってくださり、観客の方々も大変リラックスしている様子が印象的でした。心からこの日を楽しみにしていらっしゃる感じの笑顔にこちらまでワクワクしましたね。 そしていざ始まってみるとやっぱりこの大迫力!舞手の一挙手一投足、息遣い、全てが伝わってくる。僕たち観客だけが楽しんでいるのでなく、舞手の方々も楽しんで踊っているようでした。 この日ここにいらっしゃる方々は本当に石見神楽が好きで好きでたまらない人たちなんだなぁと思いました。









■Q2. 一番興味深かった点、印象的だったシーンとは?


(藤田) 全ての演目が心から楽しめたし興味深かったのですが、幾つか挙げると、『黒塚』は、青年部のみなさんとやった演目なので、めくりが「黒塚」になった瞬間、ものすごく嬉しかったです。 法印さんと剛力の掛け合いがやっぱり面白い(ミスも笑いに変えてしまう)! 悪狐が途中で三浦之介と上総之介に詰め寄ったのですが二人とも妙に驚いた顔をしていたので、あれはひょっとすると悪狐のアドリブなのかも…? 『鈴鹿山』は、いただいた石見神楽のガイドには載っていない演目でしたので、もしかしたらレアな演目? 手下の鬼が4人出るのですが、舞うとそれぞれの個性が滲み出ていて、特に一番小さな面をつけた舞手のノリノリ、キレキレっぷりが素晴らしかったです! ラストはやっぱり『大蛇』!正直広いとはいえない場所だったのに4頭も出てきた時は思わず声が出ました! 文字通り空間を埋め尽くす様は圧巻でしたし、人が操っているとは思えないくらい動きが大蛇そのものでした。 動き方絡まり方のバリエーションも凄かったです(大蛇は映像で何度か見たことがあるのですが、絡まり具合が 発展進化していた。この社中のオリジナルだったのでしょうか?)。



■Q3. ダンサー、振付家・演出家として刺激を受けたところは?


(藤田) 随所で見られたアドリブが面白かったです。セリフだけではなく舞や動き。そしてそれに動じず楽のみなさんが調子や終わりのタイミングを合わせている。これはある意味音楽でいうとJAZZかも。また面をつけることで不思議と面の下の顔の表情、踊り手の個性、そして想いなど様々なパーソナルなものがより際立ってくるようで大変興味深かったです。 そして何よりも観客を楽しませようとするところです。お客さんがいる以上は何かしらエンターテインメントでなければならないと僕は思っていて、例えそれが伝統芸能でも現代的舞台でもその意識は絶対に必要だと改めて感じました。











■Q4. 石見神楽の魅力・伝統への興味として感じる部分は?

(藤田) ・なんといってもライブ感!! 舞手、楽の音の迫力たるや!生で観たら、生で聴いたらもう一度体感したいと思わせるしクセになる。よくある伝統芸能でしょ?なんて思っていたら全然違う!本当にまだ観たことがない方は、一度は体感すべきですね。 ・物語性 石見神楽には30以上もの演目があるといいます。そのほとんどが神話や伝説、歴史を元にしたお話。ロマン溢れるものやスケールの大きなもの、可笑しく面白いものなど、様々なお話が脈々と受け継がれてきた物語。 どれも興味深いです。 ・革新性 石見神楽は伝統を守りつつも常に進化していると思います。大蛇が代表的な例で、蛇胴は提灯をヒントにして生まれ、大蛇の目が光りだし、口から火や煙を吹きだした。昔は1頭だったものが大阪万博を機に8頭に、さらにその動きや絡まり方のコンビネーションがどんどん複雑に。そこからさらに各社中それぞれがオリジナリティを出してきて現在進行形で時代に沿った進化を遂げていくのだと感じました。 面作家の柿田勝郎さんの工房にお邪魔してお話を伺うことができたのですが、新しいことをやったら怒られたり笑われる、でも10年続けていけばそれが次の新しい伝統となる。まさしくその言葉通り。ジャンルは違いますが僕がやっているコンテンポラリーダンスにも通じる考え方です。





■Q5. 次回で3回目となるGF神楽(グラントワ×藤田善宏×石見神楽)ですが、コンテンポラリーダンスと伝統芸能のコラボレーション創作においてどのようなモチベーションで挑む、挑んでこられたでしょうか。


(藤田) やっぱりこのコラボレーションは最初に神楽の物語、世界観があってこそだと思います。その世界の中に僕たちコンテンポラリーダンサーがどう乗っかるか、さらに石見神楽はもうそれだけで完成されたものなので、いかに僕たちコンテンポラリーダンサーが悪目立ちせず溶け込めるか、ということを留意しました。 でもせっかくのコラボレーション。裏側として尽力するだけではもったいないので、ダンサーが混ざることによっていかに石見神楽の表現が膨らむか、効果的な交わり方ができるかを考慮しました。 まずは石見神楽の土台のストーリーを膨らませる演出をしたいと考えています。 例えば「岩戸」で天照大神が天岩戸に隠れるのは日本神話の中では須佐之男命が暴れたからとなっているのですが、神楽ではそれがカットされて描かれていない。それなら僕たちが須佐之男命側として演じることにより観客がストーリーに入り込みやすいように手助けしてあげられる、と。 さらには登場人物として演じるだけでなく、背景や小道具までも演出の道具にしよう、と思いました。これは僕の得意な身体表現を使った〝見立て〟の表現なのですが、石見神楽にはない〝黒子〟として物や道具を操ることで面白さが倍増するのではないか、と。例えば「黒塚」では上総介が直接悪狐に矢を放つのですが、その矢を複数のダンサー達が持って踊ることによって矢の速さ、鋭さ、力強さが表現できるんです。 兎にも角にもこの素晴らしい石見神楽に僕たちが関わることでもっと面白く、もっと表現の幅が広く深くなるといいな、と思いながらずっとやってきました。GF神楽は、僕の中ですごくモチベーションの高いプロジェクトになっています。




■Q6.次回の青年部とのコラボ作品へ向けて一言お願いします。


(藤田) これまで青年部のみなさんと一緒に「岩戸」「黒塚」と2作品作ってきました。次回は何をやるのか、どういう演出にしようか、今から楽しみです。 さらに今までよりも石見神楽とコンテンポラリーダンスががっぷり四つに組み合うことでしょう。 青年部のみなさんと僕たちとでしか出来ない素晴らしいものを作りあげていきましょう!!

















2019年3月石見神楽×ダンス公演「IWATO」より


 



【藤田善宏 プロフィール】

振付家・演出家・ダンサー・デザイナー。パフォーマンスユニットCAT-A-TAC (キャットアタック)主宰。ダンスカンパニー コンドルズ メンバー。福井県出身。第72回文化庁芸術祭舞踊部門新人賞受賞。福井しあわせ元気国体開会式典演技振付総合監修。群馬大学非常勤講師。小栗旬や加藤シゲアキ主演舞台への振付やステージング、桐山照史主演舞台やNODA・MAP 、山田洋次監督演出ミュージカルへの出演、NHK教育番組の振付・出演他、MV、CM、舞台作品、振付出演多数。石見神楽などの伝統芸能とのコラボや児童演劇・幼児教育教材の監修など三世代間で楽しめるダンス劇作品や教育に力を入れる。愛猫家。プロレス・仏像愛好家。メガネ・アンティーク収集家。

石見神楽とのコラボレーション企画として2017年1月「浮世絵×ダンス×石見神楽」、2019年3月GF神楽「KUROZUKA」「IWATO」の振付、演出を行う。



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